• 2004年9月の研究懇話会

  • 【開 催 日】
    2004年9月10日(金) 15:00~18:00
  • 【開催場所】
    東京工業大学百年記念館、第4会議室
  • 【講  師】
    小山 武夫 (当会会員)
  • 【題  目】
    「プラスチックフイルムの最適設計」
    • 軟包装材料の概要
      軟包装は、プラスチックフイルムなどの柔軟性に富む材料を用いた包装形態で、食品など多くの用途があります。循環型社会では包装材の削減が必要となるため、廃棄物量の少ない軟包装の比率は年々増加しています。

      プラスチックフイルムは1960年代にPE、PVC、PPなどが相次いで量産され、高度成長期に需要が飛躍的に拡大し、今では包装資材・容器の25%に達し軟包装の主材料になっています。
    • プラスチックの物性
      プラスチックフイルムには加熱すると流動性を示す熱可塑性樹脂が主に用いられます。

      フイルムに用いられる代表的な樹脂はポリエチレンとポリプロピレンです。樹脂は高分子からなり、樹脂により構造と大きさが異なります。高分子は均一ではなく、大きさの異なるものの混合物です。構造、大きさ、大きさの分布が異なれば樹脂の物性も変わってきます。フイルム製造では、目的に適った樹脂原料を用い、製膜方法や製膜条件を目的の物性が得られるように調整します。

      プラスチックは、弾力のあるゴム成分とガラスのような結晶成分が含まれています。フイルムではでこの両方の特性を活用しています。例えば、フイルムを延伸すると延伸方向は強靭となります。この効果を利用した二軸延伸フイルムがPP、PET、ナイロン等で生産されています。
    • プラスチックフイルム
      軟包装材に必要な機能を満たすために種々のプラスチックフイルムが生産されています。近年、包装に要求される機能はますます多様化・高度化し、単一のプラスチックフイルムでは顧客の要求する機能を満たすことはできません。そこで複数の機能を併せ持った共押フイルムやラミネートフイルムが多く使われるようになりました。

      ラミネートフイルムは、基材フイルム、シーラントフイルム、ラミネートフイルム(間材フイルム)を貼りあわせ、それぞれの機能をフイルムに付与しています。 基材フイルムは、OPP,PET,ナイロンに代表されます。シーラントフイルムには、ポリエチレン、CPP、EVA、アイオノマーがあります。間材はさらに機能を付与するときに用いられます。代表的な間材として、強度を高めるナイロン、酸素バリア性のEVOHやナイロン、光線遮断性を付与する蒸着PETなどがあります。

      共押フイルムは、フイルム製造時に多層で異なる樹脂を押出し、ラミネートフイルムと同じ多機能を付与した多層フイルムです。共押フイルムはラミネートと異なり層間に接着剤がないので層剥離をしないように各層の樹脂を選択する必要があります。PEとPPでは基材フイルムとシーラントフイルムの機能を持ったフイルムが多く生産されています。

      最近、環境問題から脚光を浴びている生分解性フイルムは、土中で分解していくフイルムです。原料には、微生物系、ポリ乳酸の化学合成系、石油からの合成物である石油系、澱粉の天然高分子利用系があり、年々需要が増加しています。
    • 軟包装フイルムの機能と試験法
      プラスチックフイルムの物性には機械的物性(引張強度、伸度、弾性率、突き刺し強さ、引き裂き強さ、衝撃強さ、スリップ性など)、化学的物性(濡れ性)、光学的性質(透明度、濁度、光沢)があります。これらの物性は、主に使用した原料樹脂の物性に依存します。

      その中で、スリップ性、濡れ性、透明性はフイルムを製造する時にある程度の調整ができます。スリップ性は滑材を添加してスリップの程度を調整します。濡れ性はフイルム表面をコロナ処理することで印刷適性を付与します。透明性はPPなどの結晶性の高い樹脂では製膜時の冷却温度が影響します。このようにフイルム製造では樹脂と製膜条件を目的に応じて最適化しています。

      軟包装に必要な機能に、保護性、便利性、作業性、安全衛生性、環境適合性、商品性、経済性があります。それぞれ要求される機能は多岐にわたるため、目的の機能に応じてフイルムの種類、構成、デザインなどを選択していく必要があります。

      保護性は包装で最も大事な機能で物理的強度(機械的物性)、安定性(耐熱、 耐寒、耐候性、耐水性、耐油性、耐薬品性など)、遮断性(防湿、防水、防気性、気体遮断性)があります。

      便利性としては、ユニバーサルデザインでの形状、易開封性、携帯性などが必要です。

      作業性は、寸法安定性、熱収縮性、殺菌処理適性などの操作性、作業時の成形性、材料物性(硬さ、腰の強さ、非カール性など)、シール性(ヒートシール性/インパルスシール性/超音波シール性のシール適性、低プレスシール性/狭雑物シール性/ホットタック性などのシール特性、シール外観/シール強度などのシール性能など)、表面性状(スリップ性、濡れ性、低帯電性、無ブロッキング)などがあります。

      安全衛生性として、臭気、異物混入、添加剤の安全性、移行物質の有無、細菌の付着防止、改鼠防止能などが要求されます。環境適合性として、リサイクル性、廃棄物処理性は喫緊の課題です。商品性には、新規性、透明性、光沢・外観、形状、印刷効果、印刷適性、キャッチアイ効果が必要です。経済性として、価格、輸送保管性(重量・形状・寸法)、過剰品質の排除があります。

      包装の設計手順は、包装されるものの性質の確認、環境・危険の状況を把握、保護包装方式の選定、包装作業方式の決定、規制条件・要望事項の遵守、最後に経済性を考慮します。このステップの中で、保護包装方式の選定には包装材料の基礎知識を十分に活用した最適包装形態の選定が重要になってきます。多様化、個性化が進む包装を設計するに際して包装材料の知識はますます重要になってきています。